差別禁止法について知る

「私たちは差別禁止法の制定を求めます」

(1)「差別禁止法」の制定は人間社会の道理

差別は人間の心を踏みにじります。人間の命までも奪います。悲憤の涙が流されつづけ、無念の思いがあふれ出ます。そんな現実が、この社会にまだまだ多く残されています。
しかし日本の法律は、たとえば結婚差別の現実に「慰謝料請求」という民事訴訟の道を与えているだけです。差別行為そのものをとがめる法律はありません。これが基本的人権の尊重を標榜する日本国憲法のもとでの「法治国家」の現実です。
差別は犯罪です。差別は禁止されなければなりません。そんな当たり前なことが社会の規範たる法律によって打ち立てられなければならないと心の底から感じています。それが「差別禁止法」です。
差別問題に関して、これまでは被差別当事者に対する取り組みや対策が法律の中心をなしてきました。もちろんこれはまちがいではありません。しかし、差別は差別する人がいるから存在します。だとすれば、差別禁止という加害者(加差別者)にむけた法律もあわせて整備されてしかるべきではないでしょうか。
「差別する人がいなくなれば差別はなくなる」というこの原則を社会的なルールとして確立するもの、それが「差別禁止法」です。「差別禁止法」の制定は人間社会の道理ではないでしょうか。

(2)「差別禁止法」の制定は国際社会の標準規格

第二次世界大戦という痛恨の歴史を刻んだ世界の人びとは、恒久平和とその基礎となる人権の尊重は、国境を越えた人類的価値であることを確認し合いました。そして国連が結成され、1948年に「世界人権宣言」が採択されたのです。
国際人権規約(1966年)、人種差別撤廃条約(1965年)、女性差別撤廃条約(1979年)、障害者権利条約(2006年)など数多くの人権関係諸条約は、この「世界人権宣言」の内容が、国際的に法的拘束力をもって登場したものです。こうしてグローバルな人権基準が築き上げられてきました。そしてこれらに共通している内容が、差別禁止の立法措置の必要性です。
「差別禁止法」の制定は、戦後の国際社会が築き上げてきた人権の分野における世界秩序のスタンダードであるといえるのです。国際社会の合意を背に受けて、世界各地において「差別禁止法」の制定がすでに多くの国で実現しています。

(3)当事者主権

Nothing about us, without us !(私たち抜きに、私たちについての一切のことを決めないで!)
これは、国連を舞台に繰り広げられた障害者権利条約の策定作業で、世界中から参加した障害者が力強く叫んだ合言葉です。それは、今日では差別問題を語るときの大原則となっています。「差別禁止法」の制定においても、私たちは当然この大原則が踏まえられなければならないと考えています。つまり、「差別禁止法」で取り上げる被差別当事者の登場でありイニシアティブです。
「靴に足を合わせるのではなく、足に靴を合わせろ」とは、同和行政のなかで語られてきた原則です。あくまでも差別の現実に制度や施策を合わせるのであって、制度や施策にあった差別の現実だけを取り上げるのではないという姿勢です。「差別禁止法」においても、この視座が貫かれなければなりません。
こんな視点に立って、「差別禁止法の制定」という旗のもとに被差別当事者が結集し、差別の現実を明らかにし、議論して取り組みをすすめていくことを私たちはめざします。もちろんこれは並大抵の作業ではありません。しかし被差別当事者のこの努力が、「差別禁止法」が実現した暁には、それを「絵にかいた餅」に終わらせない保障になると考えています。

(4)「差別禁止法」が発揮する大きな啓発効果

「差別禁止法」制定の目的は、いうまでもなく差別の完全撤廃です。そのためには、悪質な差別には厳しく対処することが求められますが、罰することが法律の目的ではありません。期待されるのは、差別は社会的に許されないという規範の確立による大きな啓発効果です。
法律のもつ啓発効果に関しては、近年の禁煙の動向を見れば一目瞭然です。「健康増進法」の制定により、喫煙行為はまるで反社会的な行為であるかのような雰囲気が急速につくりだされました。たばこを吸わない人に迷惑をかけないことは、もはやたんなるエチケットの問題ではなく、市民一人ひとりの社会的責任へと高められたのです。
人を傷つけたり、人の物を盗ったりしてはいけないのと同じように、人を差別してはいけないことは、個人の道徳性や倫理観を越えて、守らなければならない「みんなの約束」として市民に共有されるという啓発効果が「差別禁止法」の制定に期待されています。

(5)すでに取り組みは開始されています

差別の撤廃にむけた法的整備の取り組みはすでに力強く前進しています。
その先頭を切っているのが、障害者差別に対する禁止法制定の動きです。2007年7月からは、千葉県において「障害者差別禁止条例(正式名称:障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例)」が施行され、その後、他の自治体にも波及しています。また長年にわたる障害者運動の成果として、国に「障がい者制度改革推進本部(本部長:首相)」が設置され、2013年に「障害者差別禁止法」の制定をめざすことが打ち出されています。
また、国家人権委員会の設置や人権侵害への救済措置を定めた「人権侵害救済法」の制定運動も前進し、いよいよその実現をめざす段階に到達しています(2012年1月現在)。
「差別禁止法」はこうした取り組みと分かちがたく結びついており、これらの取り組みに学び連帯しながらすすめていくものです。

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