前進する障害者差別禁止法制定への取り組み

1.千葉県で障害者差別禁止条例が制定される

2006年10月、千葉県で障害者差別を禁止する条例(「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」)が日本ではじめて成立し、翌年7月1日に施行されました。この条例の特徴は、障害者が人間らしく生きることを妨げている差別を具体的に定義し、こうした差別を発見し、解決するための3つの仕組みを確立したことです。
まず、県内に約600人の相談員、広域専門指導員を配置するとともに、地域の相談で解決が難しい事案については「調整委員会」が第三者の立場から解決を図る「相談解決の仕組み」です。つぎに、障害者が地域で生活していくうえで構造的に生じている差別を解決するために議論する「誰もが暮らしやすい社会づくりを議論する仕組み」(「推進会議」)です。3つめが「障害のある方に優しい取り組みを応援する仕組み」です。
こうした仕組みが確立されたことによって、2010年度で年間1292件(うち差別に関する相談は231件)の相談が寄せられました。また、「推進会議」の議論の結果、障害者への入居差別をなくしていくための提案、障害者への情報提供のあり方についてのガイドライン、視覚障害のある人が銀行を利用する際の配慮、障害のある人が使いやすいトイレの設置促進の提案が行われました。

2.北海道、岩手県、さいたま市、熊本県など多くの地域へ広がる

障害者差別を禁止する条例を求める運動は全国に広がりました。2009年3月に北海道で「北海道障がい者及び障がい児の権利並びに障がい者及び障がい児が暮らしやすい地域づくりの推進に関する条例」が、2010年7月には岩手県で「障がいのある人もない人も共に学び共に生きる岩手県づくり条例」が成立しました。さいたま市でも「誰もが共に暮らすための障害者の権利の擁護等に関する条例」が成立、2011年7月には熊本県議会においても「障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例」が成立しました。
さらに沖縄県、愛知県、大分県においても条例づくりの取り組みがすすめられています。

3.障害者権利条約批准へ「制度改革推進会議」を設置

2008年5月「障害者の権利に関する条約」が発効しました。2009年12月、民主党政権は条約批准にむけた国内法の整備にむけ、首相を本部長とする「障がい者制度改革推進本部」を立ち上げました。また具体的な課題を検討するために障がい当事者、学識経験者らで構成される「障がい者制度改革推進会議」を設置しましたが、25名の構成員のうち14名が当事者やその家族が就任し、事務局長職には障がい当事者の弁護士が就任するなど、当事者を中心とした政策立案がすすめられています。

4.「障害者制度改革推進のための基本的な方向」が閣議決定

「制度改革推進会議」は15回にわたる精力的な議論の末、「第一次意見」をとりまとめ、2010年6月29日、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向」が閣議決定されました。
そこでは、「地域生活の実現とインクルーシブな社会の構築」と「障害のとらえ方と諸定義の明確化」という改革の方向性が示され、「障害者基本法の改正」「差別禁止法の制定」「障害者総合福祉法の制定」という横断的課題、個別分野における基本方向とタイムスケジュールが明らかにされました。改革の工程が示されたことで各省庁が閣議決定をふまえた議論を始めることになりました。
「差別禁止法」については2013年に法案提出をめざすことと、これに関連して人権救済制度に関する法案も早急に提出できるように検討することが決定されました。

5.改正「障害者基本法」が成立、「総合福祉法」へ「骨格提言」を提出

「制度改革推進会議」は、2010年12月、障害者基本法の抜本改正へむけて「第二次意見」をとりまとめました。
2011年6月16日、「障害者基本法の一部を改正する法律案」は衆議院において一部修正のうえで全会一致で可決され、7月29日に参議院において全会一致で可決・成立、8月5日に公布・施行(一部を除く)されました。成立にあたって改正後の障害者基本法の施行状況を勘案し、救済の仕組みを含む障害を理由とする差別の禁止に関する制度について検討を加え、その結果にもとづいて法制の整備その他必要な措置を講ずることという付帯決議が衆参で付されています。今回の改正は「第二次意見」の内容と大きく乖離した問題もあり、3年後の見直しが重要になっています。
2012年に法案を提出し、2013年8月に施行をすることが閣議決定されている「障害者総合福祉法」についても2010年8月に障がい者制度改革推進会議「総合福祉部会」から提案された「障害者総合福祉法の骨格に関する提言」をふまえた法案作成作業がすすめられています。提言を具体化する法律の実現が求められています。

6.「差別禁止法」の制定へ

同じく2012年に法案を提出することが閣議決定されている「障害者差別禁止法」は、障がい者制度改革推進会議「差別禁止部会」(2009年11月設置)において11回(2012年1月現在)に及ぶ議論が積み上げられてきています。諸外国の障害者差別禁止法制、障害者差別が裁判で争われた事例、雇用や就労における差別禁止、司法手続きや選挙・公共施設や交通施設の利用における差別禁止などが検討されています。
法案づくりの最大のポイントは、障害者自身が体験した差別を自らが明らかにすることです。「差別禁止部会」にどれだけ多くの差別体験を集められるか、です。当事者運動の最重要テーマはここにあるといっても過言ではありません。
人権侵害救済制度については2010年8月に「新たな人権救済機関の設置について」(基本方針)が法務省政務三役の名前で発表されました。これを受け、現在法案策定の作業がすすめられています。検討中の法案は、新たな人権救済機関(人権委員会)を政府から独立して設置をするというものです。
障害者差別禁止法と人権委員会が成立することが期待されています。

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