世界からの呼びかけ

「日本も差別禁止の法制化を!」

1.国際人権関係条約に共通する差別禁止条項

日本は、国連が採択した国際人権規約、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約など主要な国際人権条約の多くを批准し、それらは拘束力をもつ日本の国内法になっています。そしてそれらには、いずれも差別禁止の条文があります。
国連は主要な人権条約の締約国における実施状況をモニターするために条約ごとに監視機関(委員会)を設置しており、定期的に締約国が提出する報告にもとづき、政府代表を招いて審査をおこなっています。それに際して、NGOも委員会に情報提供することが奨励されています。審査を終えると、委員会はその国に対して総括所見(最終見解)を採択します。
日本に対する総括所見のなかで、差別禁止のための法制度や施策の不在の現状、およびその確立をうながすたくさんの懸念や勧告が盛り込まれています。

2.勧告相次ぐ「差別禁止の法制度化」

たとえば部落差別に関して、人種差別撤廃委員会が2010年4月に採択した総括所見では、「雇用や結婚、住居及び土地の価格のような公的生活の分野で依然差別が残っていることに懸念をもって留意する」と述べています。同委員会は人種差別に関して、「人種差別を直接的及び間接的に禁止する特別法の採用を検討し、本条約により保護されるすべての権利に対応することを要請する」と勧告しています。
女性差別撤廃委員会は、「政府の職員(公人)が、女性の品位を下げ、女性を差別する家父長的仕組みを助長させるような侮辱的な発言をしないことを確保するよう言葉による暴力の犯罪化を含む対策を取ることを締約国(日本)に要請する」と2009年8月の総括所見で述べるなど、さまざまな領域において女性差別禁止の制度化を求めています。
子どもの権利委員会は、2010年6月の総括所見で、障害のある子どもに対する「深く根付いた差別が今なおあること」を懸念し、その解決をめざした具体的な施策を勧告しています。
このように、日本は「差別禁止の法制度化」という国際人権基準にもとづいた改善勧告を国連から繰り返し受けつづけているのです。

3.欧州の差別禁止法制度

欧州では、第二次世界大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ教徒やシンティ・ロマの人びと、障害のある人、そして同性愛の人びとに対する迫害の反省のもとに、差別の撤廃のために、さまざまな努力がはらわれてきました。自由権保障を中心とした欧州人権条約や、国連を中心にして制定されたさまざまな人権条約のもとで、欧州諸国は、表現規制を含めた差別撤廃に取り組んできました。
また今日、欧州連合(EU)では、性差別撤廃のために培われてきた経験をもとに、人種的・種族的出身、宗教や信条、障害、年齢、そして性的指向にもとづく差別を撤廃するために、「人種差別撤廃指令」と「雇用差別撤廃指令」を2000年に制定しました。
欧州連合の法文書の形式の一つである「指令」は、すべての欧州連合構成国に対して法的拘束力を有しています。「人種差別撤廃指令」は、人種的・種族的出身にもとづく差別を、雇用の分野のみならず、社会保障、教育、商品・サービスへのアクセスの分野でも禁止することを求めています。また、「雇用差別撤廃指令」は、雇用分野に限定していますが、宗教や信条、障害、年齢、性的指向にもとづく差別を禁止しています。現在、この分野を人種差別撤廃指令が規定する分野にまで広げていこうという議論がすすめられています。

4.「差別禁止法」から「行動計画」へ

こうした「指令」にもとづいて、多くの欧州諸国が、差別禁止に関する法律を制定しています。その形態は、刑事法や労働法、社会保障関連法に差別禁止規定を設けるケースもあれば、差別禁止法それ自体を制定するケース、国内人権機関を設置する法律に差別禁止規定を盛り込むケースなど、多様です。いずれにしても、指令の禁止する差別(直接差別・間接差別・ハラスメント・差別の指示)に対して、一定の制裁を科すべきことや、差別の撤廃のために平等取扱機関を設置すべきことが、欧州諸国においては合意を見ていることは注目されます。
また、これらの差別禁止法制の実効性を高めるために、「差別を撲滅する共同体行動計画」(2001年~06年)や「雇用と社会的連帯のための共同体計画」(2007年~13年)を策定しています。これらの行動計画のもとで、差別の実態把握や啓発活動、そして差別撤廃のために活動する裁判官や公的機関、そして市民団体(労働組合・NGO)に対する人材養成がおこなわれています。
もちろん、これらの法制や行動計画がつくられ、さまざまな取り組みがおこなわれたからといって、ただちに差別がなくなるわけではありません。現に、移民やシンティ・ロマの人びとに対する差別は依然厳しいものがあります。しかし、少なくとも差別禁止のために法律を定め、「差別は許されないものだ」という社会的合意を積み上げています。

このページのトップへ