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福島差別問題に対する取り組みの中間報告(2012年6月27日)

2012年07月02日

  福島差別問題に対する取り組みの中間報告(2012年6月27日)   

差別禁止法の制定を求める市民活動委員会共同代表 奥田 均

福島差別問題への取り組みが新たな段階へ

差別禁止法の制定を求める市民活動委員会は、2011年6月9日の発会にあたり「福島差別を許さない緊急アピール」を発しました。私たちの取り組みが差別の撤廃をめざすものである以上、新たに創り出され始めたこの問題をどうしても素通りするわけにはいきませんでした。

取り組みは、熱い思いと各人のネットワーク(人脈)だけを頼りにしたおぼつかないものでしたが、その精一杯の活動の成果が、第180回国会(現国会)で制定された「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」(以下「被災者支援法」)という形で実りました。

「被災者支援法」は福島差別問題を正面から捉えた法律 ではありません。ですから、この法律の制定を「成果」と大言するのは気が引けます。しかし、東日本大震災および福島原発事故に関わる法律の中で、はじめて「差別」という文言が条文に入り、課題として位置づけられました。またこの法案を巡る国会審議において、福島差別問題が正面から議論されました。実態調査の必要性も取り上げられました。現に存在する福島差別問題が、一部関係者が訴えている課題という段階から、国が認知する社会問題へと高められたということです。差別問題において、「社会問題化する」というこのステップアップがいかに重要なことであるのかは今更説明の必要はないと思います。ご尽力いただいた関係者の皆さんに、心より敬意を表したいと思います。

この機に当たり、福島差別問題に対するこれまでの主な取り組みを簡単にふり返ったうえ、「被災者支援法」に関する国会審議の実録を共有したいと思います。

福島差別問題へのこの1年間の主な取り組み

2011年

6月 9日:発会式で「福島差別を許さない緊急アピール」を採択

8月26日:枝野官房長官に要請行動・懇談(奥田・藤本・外川・小森)

→稲見民主党震災福島室長、福島社民党党首に要請行動・懇談

9月 1日:東京新聞「やまぬ『福島差別』」の報道

11月26日:第63回全国人権・同和教育研究大会で石村榮一理事長が福島差別問題を訴える。赤坂憲雄福島県立博物館館長が特別報告で福島差別の実態を報告。

12月11日:福島差別を考えるシンポジウム(桜井南相馬市長、広島被爆体験者飯田さん、村田医師)大阪・南御堂同朋会館

2012年

1月24日:福島県会津若松市での新世紀JA研究会全国セミナーで福島差別問題への取り組みを提起(奥田)→菅野福島県弁護士会会長・福島県・マスコミ各社を訪問し要請と意見交換

2月20日:野田内閣総理大臣に要望書を提出

3月 2日:辛淑玉さん『週間金曜日』掲載の「殺されゆく弱者」で福島差別問題を論じる

3月13日:民主党「被災者支援法」起草第9回WT(ワーキングチーム)勉強会に招請され問題提起を行う(奥田・谷川・松村)

→民主党池口修次企業団体対策委員長、大島九州男民主党副幹事長、大久保潔重民主党副幹事長に要請行動・懇談

5月1日:浄土真宗大谷派東本願寺が差別問題に関するリーフレット「もうひとつの原発問題」を発行、福島差別問題を全国で訴える

5月12日:ハンセン病市民学会第8回総会のシンポジウムで福島差別問題との関連を議論する(コーディネーター原田)

※このほか、大阪府議会では吉田保蔵府議が、鳥取市議会では椋田昇一市議が福島差別問題を取り上げ避難者に対する取り組みを提案しています。

※また各地で福島差別問題を考える学習会が開催されてきました。

※5月1日に改訂された冊子「希望の未来設計図 差別禁止法をつくる」では新たに福島差別問題を取り上げました。

「被災者支援法」について

①「被災者支援法」は、与野党案が1本化され参議院に議員立法として提出されました。東日本大震災復興特別委員会で審議され、参議院では6月15日の本会議で、また衆議院では6月21日の本会議でそれぞれ議決・成立しました。

②「被災者支援法」第2条(基本理念)の第4項には被災者に対する差別問題が盛り込まれました。

第二条 4 被災者生活支援等施策を講ずるに当たっては、被災者に対するいわれなき差別が生ずることのないよう、適切な配慮がなされなければならない。

③「被災者支援法」第5条(基本方針)では、基本理念の具体化が規定されています。

第五条 政府は、第二条の基本理念にのっとり、被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。

2 基本方針には、次に掲げる事項を定めるものとする。

一 被災者生活支援等施策の推進に関する基本的方向

二 第八条第一項の支援対象地域に関する事項

三 被災者生活支援等施策に関する基本的な事項(被災者生活支援等施策の推進に関し必要な計画に関する事項を含む。)

四 前三号に掲げるもののほか、被災者生活支援等施策の推進に関する重要事項

3 政府は、基本方針を策定しようとするときは、あらかじめ、その内容に東京電力原子力事故の影響を受けた地域の住民、当該地域から避難している者等の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。

4.5(略)

6月14日参議院・東日本大震災復興特別委員会での審議より(なお議員立法のため「法」の解釈などの答弁は発議者が行っている)。金子恵美議員の答弁は明快で重要です。

○秋野公造君(公明党・比例代表)

次に、第二条四項について伺いたいと思います。
ほかの委員の先生方からも質問がありましたが、被災者に対するいわれなき差別が生ずることがないよう適切な配慮がなされなければならないとありますが、我が国では、六十七年前に広島、長崎で被爆者がいわれなき差別、偏見に苦しんだという経緯があります。小熊委員からもありました。
被爆地に育った者として、今でも、母や親族や、そして長崎に住む先輩方から聞く差別、偏見のお話というものはいつまでたっても新鮮に感じるところでありますが、もしも、そんな状況であるにもかかわらず、福島でまた新たないわれなき差別、偏見が生じようとしているのであれば、六十七年前に広島、長崎で起きたそういった反省が全くいまだ国内で生かされていないということになるのではないかと思います。
 どうしてこのような条文が必要なのかということを考えるときに、学校教育だけで本当に十分なのか、そういった観点から国にどのように対応させていくべきと考えているか、金子発議者の見解を伺いたいと思います。

○金子恵美君(民主党・福島)

お答えいたします。
どんな差別でもあってはいけない。我が国には、女性差別、そして障害のある方々の差別、そしてまた、今おっしゃっていただいた広島、長崎の被爆者に対する差別と、本当に大きな差別が残ってしまっています。まずは、これに対して本当に国全体挙げて闘っていかなくてはいけないということを申し上げさせていただきたいと思います。
そして、今まさにおっしゃったとおり、福島差別という新たな差別が生まれつつあるというふうに私自身も理解をしております。法務省の人権擁護局で把握している限りにおきましても、やはり相談例の一つとして、福島ナンバーであることを理由に駐車を拒否されたことであるとか、そしてまた、県外に避難された方々の中で子どもを保育所に入園させようとしたところ、不安の声が出て対応できなかったとか、そういうことがあります。
実際には、やはりこの実態をしっかりと把握していくことから始めていかなくてはいけないというふうに思っておりまして、そしてその実態を把握した段階でしっかりとした対応をしていかなくてはいけないというふうに思っております。
草案の中では、支援対象地域からの他の地域に移動する被災者、そして避難指示区域から避難している被災者に対し、移動避難先の地域での生活を支援するための施策を講ずることとしていますが、当該施策を講ずる上では、その移動避難先の地域の住民、地方公共団体の協力が必要でございます。こういった協力を得るには、いわれなき差別が生ずることのない環境をしっかりとつくっておく必要があります。こうした考え方を明確にするためにこの第二条の第四項を規定することとしました。
この草案の各種の施策が基本理念に即したものとなるように講ぜられることとなりますが、今回、今申し上げたような中で、福島差別については放射線についての無理解というところから派生しているものもあります。ですので、十八条では、放射線等についての国民の理解を深めるための施策を講ずるとしておりますので、これは差別の防止に資するものであるというふうに考えているところでございます。
差別の防止等は国が責任を持って積極的に進めるべきものだというふうに考えておりまして、繰り返しになりますが、まず実態把握をしていただくその仕組みをつくっていかなくてはいけないというふうに考えているところでございます。

○秋野公造君 ありがとうございます。
福島の皆様のために、被災者の皆様のために実効性が上がるように共々に力を尽くしてまいりたいと思います

私たちが働きかけをしていない議員からも積極的な質疑がなされました。福島差別問題の深刻さは福島を地元とする議員共通の実感であり、これに対する懸念は党派を超えたものであることが感じられます。(6月14日参議院・東日本大震災復興特別委員会)

○小熊慎司(みんなの党・全国区・福島県)

川田発議者の御自分の人生も踏まえての答弁でありましたけれども、まさに、考えてみれば、大丈夫だろうとか、まさかそんなことないだろうということがあって川田議員も大変苦しまれた。二度とそういう、まさかとか、だろうで、実際事が起きてしまわないようにという思いを強く感じた次第であります。
そういう意味で、我々福島県としては風評被害とか差別といったものも非常に懸念をするところで・・・(中略)
先ほどの差別の問題であれば、学校教育でのしっかりとした取組ということも言われましたけれども、私が昨年本会議でも事例で出しましたが、私の地元の高校生がこの春就職するに当たって、東京で就職が決まった際に、社長からふるさとの名前を言うなと。これは社長が差別したというよりは、福島県出身ですと言うことによって社員の中で差別が起こるから言わない方がいいよという配慮だったのかもしれないんですが、私これは間違いだと思うんですよ。その社長はしっかりと社員教育をしてやるべきであって、そういった誤解がないようにしていかなきゃいけないという意味では、これは学校教育ではなくて、広く国民、ある意味ではこれは全世界からいえば日本そのものが風評被害に遭っているわけですから、これは全世界に向けてしっかりと情報発信をしていかなければいけないというふうに思いますし、この差別のところの言及はこの今言った第二条の第四項に規定はされていますが、差別される側への配慮だけではなくて、差別する側への、一番大事なことは差別する側への対策が重要だと思います。
 そういう意味では、広く国民、また世界に向けてどのようにこれは対策を取っていくのか、お聞きをいたします。

○川田龍平君(みんなの党・東京)

小熊議員の御指摘の点について、この第十八条で放射線等に関する国民の理解を深めるために必要な施策を講ずるものとしております。やはりこの放射線に関する知識をやっぱりしっかりと国民、そして国外にもしっかりと理解していただくことが大事かと思います。

「寝た子を起こすな」という主張は福島差別問題でも登場しています(6月14日参議院・東日本大震災復興特別委員会)

○佐藤信秋君(自民党・全国区)

そこで、手厚く医療費等についても助成していくというか、手当てしていく、これは大変大事なことだとは思います。
一方で、福島で被ばくしたんじゃないかというのでいわれなき差別を受けたりするような場合もありますよね。そうしたことについて過度に大変だ大変だと言うのもいかがなものかという部分もありますね。そういう、その差別的な扱われ方をしないようにということもまた大事なことだと思うんですが、その辺についてはどんな配慮になっているでしょうかね。

○森まさこ(自民党・福島)

 残念ながら、このような差別を受けている、いじめを受けているという声が多く寄せられております。特に県外に避難している方から声が寄せられております。このような差別をなくしていくためには、放射線に関する正しい理解を深めることができるように、例えば学校教育における放射線に関する教育の推進など、必要な教育及び啓発を行うことが考えられまして、その旨を条文にも定めております。
今日の福島民報新聞に載っておりますけれども、自民党福島県連は被ばくという文言を外してくれという意見も出しておりました・・・(中略)

被ばくという文言を書かなくても法の趣旨が全うできるんだということが今後確認をできましたら、削除することも是非今後検討をしていっていただきたいと、私個人は思っているところでございます

6月19日衆議院・東日本大震災復興特別委員会での審議より。当事者主権といいますが、福島県選出議員の質問は的確です。答弁者への働きかけがあったこともうかがえます。ただ、平野大臣答弁はもう少し踏み込んでほしかった・・・

○高木(美)委員(公明党・福島)

次に、基本理念について伺いたいと思います。
第二条第四項におきまして、「被災者に対するいわれなき差別が生ずることのないよう、適切な配慮がなされなければならない。」とありますが、具体的に、提案者である加藤議員はどのようなことを想定されているのでしょうか。

加藤(修)参議院議員(公明党・全国区)

 御指摘のとおり、被災者に対する差別の防止が課題となっておりまして、この法案の施策を講ずる中でも、いわれなき差別が生じることのないよう配慮をされる必要があります。
例えば、この法案では、支援対象地域からほかの地域に移動する被災者、あるいは避難指示区域から避難している被災者に対し、移動とか避難先の地域での生活を支援するための施策を講ずることとしておりまして、当該施策を講ずる上では、その移動、避難先の地域の住民、地方公共団体の協力が必要なわけであります。そういった協力を得るためには、いわれなき差別が生じることのない環境をつくっておく必要が当然ございます。こうした考え方を明確に示すため、第二条第四項を規定することとしました。
この法案の各種の施策は、同項の基本理念に即したものとなるように講ぜられることとなりますが、特に第十八条では、放射線等について国民の理解を深めるための施策を講ずるものとしており、これは差別の防止に資するものであると考えております。例えば、学校教育における放射線に関する教育やあるいは人権教育の推進など、必要な教育及び啓発を行うことが考えられます。

○高木(美)委員

ありがとうございます・・・(中略)
政府の取り組みの現状と今後の対応につきまして、きょうは平野文科大臣にもお越しいただきました。大変短時間で恐縮ですが、簡潔な答弁を求めます。また、環境省からも副大臣にお越しいただいておりまして、簡潔な答弁を求めたいと思います。

○平野(博)国務大臣

今、高木先生からお話がございましたが、特にそういう人権問題、差別、こういうことが起こらないようにするためにも、しっかりとした正しい認識を持ってもらう必要がある、こういう観点から、放射線教育に関する現実は今どうなっているんだ、こういう御質問だと理解をいたします。
放射線に関して差別を受けることはあってはならない、こういうことで、児童生徒を初め国民全体が放射線について正しい知識を持つことが極めて重要でございます。
文科省としましては、放射線に関する教育については、新しい学校学習指導要領の理科において、放射線の性質と利用について新たに示し、全国の学校で平成二十三年度から指導をさせていただいているところでございます。また、文科省として、例えば放射線について正確な知識を学ぶための小中高等学校における児童生徒用の副読本を作成し、配付をしてございます。基礎知識のみならず、放射線等の人体への影響、放射線や放射性物質から身を守る方法などについて学ぶことができるようにいたしているところでございます。
さらに、教育委員会等に対し、被災した児童生徒を受け入れる学校において、当該児童生徒に対する心のケアや当該児童生徒を温かく迎えるための指導上の工夫、保護者、地域住民の方に対する説明などが適切に行われるよう、いじめの問題などを許さないように、問題を生じさせないように要請をいたしているところでございます。

金子恵美議員の発言は重要な答弁です。(6月19日衆議院・東日本大震災復興特別委員会)

○高橋(千)委員(日本共産党・比例東北ブロック)

(前略)

ただ、この法案そのものは、やはり、出発点からいいますと、子供だけでなく大人もそうである、あるいは福島県だけではなく福島県の外の方も想定しているというふうに思いますけれども、確認をさせてください。

○金子(恵)参議院議員

被災者につきましては、法案の第一条において「一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住し、又は居住していた者及び政府による避難に係る指示により避難を余儀なくされている者並びにこれらの者に準ずる者」をいうこととされております。
この被災者の範囲ですが、これまで施策が講ぜられてきた避難を余儀なくされた者よりも大幅に拡大することとなります。福島県外に居住している者や大人であっても、一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住している、または居住していたことがあれば、被災者となっていくこととなります・・・(中略)。
差別につきましても、福島県の被災者だけではなく、福島県外の放射線量が高い地域に居住し、または居住していた被災者に対する差別の恐れがあります。そのため、福島県に限らず、広く支援対象地域に居住している方々、または居住していた方々に対する差別が生ずることのないような環境をつくっていく必要があるというふうに思っております。

○高橋(千)委員 ありがとうございました。確認ができたと思います。

 

中間報告を終えるに当たって

1.福島差別は厳存している。差別の現実は当事者が誰よりも敏感に感じ取っている。党派を超えた福島選出の国会議員の質疑を読みながら感じました。

2.第2条(基本理念)の第4項は、「被災者生活支援等施策を講ずるに当たっては」という枕詞があり、「施策の無差別平等の適応」として取り扱われる心配がありましたが、国会での審議を通じてこうした「狭義の解釈」は否定されました。「被災者に対するいわれなき差別が生ずることのないよう」な取り組みの必要性がごく自然に確認されました。

3.「福島差別がある」「これを何とかしなければならない」という認識が国会で形成されたというのが「被災者支援法」成立による到達段階だと思います。

4.実態の把握、メンタルケアを含む被害者への救済・支援、人権相談活動の展開、反差別人権の立場からの福島差別問題に関する教育啓発活動の展開など、課題がだんだん具体的になって来ました。この1年間の成果を手かがりに、広く関係者との協働で一歩一歩取り組みを進めていきたいと思います。

 

 

 

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