研究会

学習会報告(9/15) 「始まったばかりの障害者差別禁止条例づくり運動(京都)」

2012年10月25日

2012年9月15日、松波めぐみさん(当会アドバイザー、(公財)世界人権問題研究センター専任研究員)をお招きして、京都における障害者差別禁止条例づくりの運動について学びました。松波さんは、現在42の団体からなる「障害者権利条約の批准と完全実施をめざす京都実行委員会」の事務局をされています。

下記は、学習会での松波さんのご報告要旨です。

 

障害者権利条約の批准に必要な国内の障害者制度の改革を行うため、2009年に内閣府に設置された「障害者制度改革推進会議」(現「障害者政策委員会」)は、①障害者当事者が平等な立場で参加すること(「合理的配慮」の実践)、②障害者の参画を推進するために情報公開を行うこと、などを特徴としています。これは一つのモデルとなり、京都の障害者差別禁止条例づくりの運動でも活用されています。

「制度改革」の柱は三つ。①社会モデルの考え方、地域社会で生きることを権利とする理念、共に学ぶ教育などを盛り込んだ障害者基本法の改正、②障害者の反対をおしきって成立した自立支援法への反対運動から制定された障害者総合福祉法が内容を削減されたうえで「総合支援法」として今年度成立の見込みであること、③障害者差別禁止法の制定(提言がまとまる)、の三本柱です。

京都の障害者運動は、70年代からの先進的な交通バリアフリーの運動や、各団体の活動はありがらも、横のつながりが弱いという特徴がありました。ネットワーク化を図ろうと、障害種別や党派を超えて数人で準備をし、「障害者権利条約の批准と完全実施をめざす京都実行委員会」(以下、「京都実行委員会」)が2009年1月に正式に発足しました。これまで2ヶ月に一度の「定例会」のほか、集会や勉強会を開催してきました。定例会の中で、互いを知る取り組みとしての「団体紹介」が恒例化してくる中で、自分とは違う障害や疾患をもつ人たちが日々抱える困難を知ることができ、連帯感もうまれてきました。現在、42団体が「京都実行委員会」に参加しています。

国レベルにおける障害者権利条約批准の動きや、障害者差別禁止法などの動きと並行して、身近な地域で差別をなくす取り組みを広げるために、各地域における条例づくりの運動が生まれてきました。

「京都実行委員会」は、現知事が公約として掲げていた「ノーマライゼーションの京都条例」を盾に、2010年春、条例制定に向けた要望書を提出。こうした働きかけを受けて、京都府は、「差別事例」の募集を担当課のHPに掲載したり各団体に郵送するなどで実施しましたが、ごく一部の人にしか情報が伝わらないという限界を抱えていました。

そこで、松波さんたち「京都実行委員会」事務局が主催で、同年冬から2011年秋にかけて、京都府下4か所で、「事例集め、相互理解のためのワークショップ」を行いました。他の障害者の体験を聞くことは、「差別」という視点で自分の体験を考える機会にもなりました。

京都府が本格的に動き出したのは今年度に入ってからで、障害者団体も入って条例の中身に関する話し合いを始めたのはこの8月末からです。京都府は「障害のある人もない人も共に安心して生き生きと暮らす京都づくり条例」(仮)のための「条例制定検討会議」を設置。委員の半分は障害者団体です。ただし結果的に障害者委員は全員が男性であったため、「女性障害者」当事者委員の枠をつくらせました。「女性障害者」の条項を条例に盛り込むことを、全国初で実現させようと盛り上がっています。京都府の当初の案では知的・精神障害の当事者が委員に入っていなかったため、京都実行委員会から抗議の意見書を提出して、公募で入れるようにしたり、条例制定会議に傍聴に行くようにという運動もしています。

こうした公的な条例制定会議と並行して、オープンで誰でも参加できる、テーマ別の「検討部会」も府と「京都実行委員会」の共催で今後開いていき、生の声を反映させていく予定です。また、京都府としても、府内各地での「タウンミーティング」を最低6回予定しています。

しかし、縦割り行政の弊害も見られます。条例づくりの府の担当課は障害支援課で、課の担当者は当事者参画の意義を理解していたり、先進地域に学びに行くなどされていますが、府から参加する教育関係の担当者は特別支援教育の部局のみに限られ、一般の教育部局や人権啓発の担当部署は参加していません。松波さんは、「特別支援教育」と人権教育が、「障害」と「人権」がなぜリンクしないのか、そこに、障害の社会モデルの視点や障害者権利条約の理念がなぜないのか、と問題提起をします。

松波さんたちは、今後、条例案を煮詰めて、「当事者、関係者の意見」を反映するしくみを複数用意していくそうです。多くの人の声や思いが結集した条例づくりになるよう、「京都実行委員会」として自由参加の「バックアップ会議」をつくり策を練っています。ブログによる情報発信、パンフレットや機関紙の作成も検討しています。

2012年8月19日には、集会も開催されました。集めた事例の発表、京都では手話劇、障害者が日常経験することを描いた4コマ漫画(※)、女性障害者の体験発表などが行われました。手話といった自分の言葉で発表すること、他の障害者の体験を自分の体験と照らし合わせることは、参加者同士の学びや共感・共有の場となりました。

千葉では障害者差別禁止条例が制定されて6年。条例制定そのものが市民の啓発になっています。また、自治体レベルで相談窓口や解決システムなどのしくみができたことにより、たくさんの人を巻き込めるようになってきました。「まだまだ、これから!」です。

 

松波さんのお話は、国連・国・地域レベルの話、マクロとミクロの視点からの話、総合的かつ具体的な話、歴史的な流れを踏まえながらの最新情報、他では聞けない事務局だからこそ聞ける裏話、障害者運動や人権教育の分野で活動と研究の経験の中で積み重ねてこられた鋭い視点や問題提起などが盛りだくさんで、学びや気づきや思考の貴重な機会となりました。

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