研究会

報告「マイノリティの人権と差別 - NGOによる国連活用の可能性」(2012.5.8 白根大輔さん)

2012年06月28日

市民活動委員会主催による差別禁止法研究会で話す機会をもらった。といっても具体的に何かについて講演するという設定ではなかったので、とにかく国連人権システムについての説明をし、それらを日本で差別禁止法を制定するために使えるのかどうか、また国内人権機関が設置されることで特に国際社会、国連レベルで広がる可能性について質疑応答を交えながら会話形式のものになった。

主要な国連人権機関の中でも条約機関(自由権規約委員会や人種差別撤廃委員会、女性差別撤廃員会など、現在10の条約機関がある)の締約国審査を見ると、差別禁止法(包括的なものにしろ部分的なものにしろ)や国内人権機関の有無だけでその国がどれだけ人権に関わる問題を重視しているかをある程度計ることができると思う。差別禁止法や国内人権機関の必要性や重要性についてはここであらためて説明する必要は無いと思うが、そのような法律が無い、国内人権機関が無い、という状態は人権を取り巻く国際社会において今後ますます異常というか国としても恥ずべき状況になっていくのではないだろうか。憲法で法の下の平等が保障されているから、というような理由は、国連人権システムの中で誰が聞いても正直言い訳にしか聞こえないし、人権問題について真摯に取り組んでいく姿勢が全く無いという風にとられても仕方が無いだろう。

パリ原則に応じた国内人権機関が設置される国が増えるに従い、そのような国内人権機関、特に国際調整委員会によりAステータスの評価を得ている人権機関が国際社会、国連人権システム内で果たせる役割も大きくなってきている。人権理事会やUPR(普遍的定期的審査)では個別の発言枠がとられているし、条約機関による締約国審査の中でも公式発言をする機会や委員会と個別にやり取りをする枠なども増えてきている。特にAステータスを持つ人権機関は国からも独立し、また純粋な質の基準のないNGOとも違い、信頼できる情報源として国連関係者、専門家から評価を得るのは当たり前と言えるだろう。その意味でも今後条約機関やUPRによる審査が続いて行く中で、国内人権機関の無い国、またあったとしてもパリ原則に従っていない国などの評価はどんどん下がっていくのは必然と言える。

こう見てくると、草の根の社会で差別など様々な人権問題に直面する当事者、当事者による運動、支援するNGOらにとっても、国内人権機関の設置は国内での意味だけでなく、差別や人権問題の禁止・防止、救済、その他様々な人権状況の改善のために国連を活用していくうえでもかなり役立つものになるであろう。

さて差別禁止法の制定や国内人権機関設置のため、(そのための要望、運動や働きかけが国内にあることを前提に)国連機関は果たして、またはどのように使えるのだろうか。日本審査を行った条約機関からは常にそのような勧告が出ている。今後の国連会議の予定を見てもやはり、まず第一の山場は今年10月に迫ったUPRだろう。その性格上UPRではそこまで突っ込んだり、具体的な勧告は期待できないかもしれないが、国内人権機関の設置は他の国々との比較も容易であるし、そのような機関が無いという事実を鮮明化するにはとてもいい機会だ。差別禁止法の制定を求める市民活動委員会による冊子の21ページに載っている図を見ても分かる通り、いわゆる「先進国」とされている国の中で国内人権機関の無い国がいくつあるだろうか。それらの国はむしろ人権後進国というレッテルをはられるべきだ。

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