研究会

報告「障害者差別禁止法の展望」(2011.8.23 東俊裕さん)

2011年09月07日

「Nothingaboutus,Withoutus!(私たち抜きに、私たちについての一切のことを決めないで!)」これは「国連障害者権利条約」の採択に向けた障害者運動の合言葉です。

日本政府は「国連障害者権利条約」に署名しましたが、未だ批准していません。批准のためには国内法制度の整備が必要なため、内閣府に「障がい者制度改革推進本部」(2009年)を設置しました。「障がい者制度改革推進本部」では、障害者施策の推進に関する意見を求めるため、本部のもとに、半数以上を障害種別ごとの当事者や家族の委員で構成しています。その推進会議の下に「障害を理由とする差別の禁止法」の制定をめざし、「差別禁止部会」が設置されています。

障害の捉え方について、従来の「医学モデル」から「社会モデル」への転換が必要になります。「医学モデル」とは、障害者が受ける社会的不利に対して、機能障害や能力障害から障害は個人の問題にあり、自ら克服するという考え方です。「社会モデル」とは、障害者が受ける社会的不利に対して、個人の問題ではなく、社会との関係性の問題であり、社会が変わらなければならないという考え方です。例えば、知的障害者が就労できない問題では、従来の「医学モデル」で見れば、計算できない・判断できないなど働く能力が低いからと考え、福祉等専門機関によって働く訓練をし、適用させる資質を身につけることで問題解決とされます。果たして、従来の「医学モデル」が、知的障害者の就労問題の解決に繋がっているのか疑問が残ります。能力アップも大切ですが、労働力から排除されている社会の中で、それでは問題解決とはいえません。「社会モデル」で考えると、就労につなげる社会システムを作るなど、社会が変わらなければならないという課題が見えてきます。社会には、大人や子ども、高齢者がいるように障害者もいます。社会に障害者がいるにもかかわらず、社会システムを障害者が利用できない仕組みとして作ってきた、社会への責任を問うものです。「社会モデル」は、人権の考え方であると考えます。

障害者の差別禁止では、「直接差別」「間接差別」「合理的配慮をしない」の3つの類型があります。障害者の差別禁止法をつくる必要性として、「障害者差別とは何なのか」という分かりやすいルール(定義)を、社会全体に示さなければなりません。人の倫理観や道徳観はさまざまで、差別かどうかの判断は人によって異なります。今年4月に施行された熊本県の条例づくりでは、障害者に「差別を受けたかどうか」と質問すると、回答が少なかったのですが、「理不尽な思いをしたことがあるか」の問いには、多くの事例がでてきました。それらを元に、当事者団体であるヒューマンネットワーク熊本・障害者差別禁止条例をつくる会が、熊本県内で800件の差別と思われる事例を収集し、「障害に基づいた差別と思われる事例集」としてまとめました。差別かどうかの判断基準があいまいなのは、見識が浅はかではなく、「何が差別なのか」という分かりやすいルールがないことに問題があります。また、障害者が、差別を受けても相談する場所もなく、苦しみながら心の中にしまい込んでいることは、差別が放置されてきた結果といえます。隠していたら、分からないままであり、隠れた事実を掘り起こすのは、当事者の役割といえます。

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